「鯛の鯛」の短歌

角川『短歌』9月号第557回角川歌壇にメバルの「鯛の鯛」について詠んだ歌が載っていた。 メバルにも「鯛の鯛」あることを知り煮付けの鰭の奧処をほぐす 新潟県 柳村光寛 辰巳泰子選では特選、生沼義朗選でも佳作の一首目にある。 特選の選後評には 骨までしゃ…

漢文を翻刻するときに便利なサイト

翻刻してテキストを作るのはすべての基本。漢文は写本でも文字をあまり崩していないものが多いですが、それでも時間がかかります。ふだん翻刻するときにお世話になっているアプリやサイトの覚え書きです。「えっ、あれ使ってないの?」というのがあればぜひ…

自分で詠んでみることで漢詩を学ぶ

昨年度まで、ちょっと変わった漢文の授業を担当していました。実際に学生さんに漢詩を作ってもらうことで、漢詩に関わる内容を学んでもらうという授業です。 年度ごとにアレンジしていますが、だいたい以下のように進めていました。ほとんどの回で、以下の内…

新年に決めたことなど

2022年の新年に「がんばるという気合いだけでは無理なので、仕事をする環境と仕組みを作っていきます」と書いていたのに、「帰宅するのが9時過ぎそうだったらサクッと外食」「弁当作りで消耗せず、外食で浪費せず、学食を活用する」くらいしか実現できません…

「買ひ得たり重来晩市の魚」の解釈について

中村健史氏から「晩市余考」(『研究と資料』第85輯)をいただいた。「柏木如亭「即事」詩考」(『雪を聴く 中世文学とその表現』所収)における「買ひ得たり重来晩市の魚」の解釈について疑問を書いたところ、検証してくださったものである。 ありがとうご…

揖斐高『江戸漢詩の情景――風雅と日常』

睡眠不足のぼーっとした頭で『雅俗』21号を読んでいると、「名著巡礼」で山本嘉孝氏が中村真一郎『江戸漢詩』を取り上げている中に私の名前が出てきて一瞬で目が覚めた。『江戸漢詩』は、大学卒業後ふつうにOL(死語…)になって3年くらい勤めて寿退職(死語……

久しぶりに書簡を読む

コロナ渦で対面で集まりにくくなってから、活動が停止してしまっているものがいくつかある。その一つ混沌会 を先日2年ぶりにオンラインで再開することができた。まだまだ問題があり、不手際も多かったが、まずはここまでこぎ着けたことを喜びたい。 というわ…

佃一輝『茶と日本人―二つの茶文化とこの国のかたち』

初めてお茶会に参加して文人茶の世界に触れたとき、これまで自分の愛して親しんできたものが1つに束ねられるような感覚があった。漢詩文の世界と書や文人画から、生活を彩るというよりもはや美術品の域にある食器や文房具、家具や花、料理や着物まで、バラバ…

新型コロナウイルスに罹っていました

7月下旬に新型コロナウイルスに感染してしまいました。 どこで感染したのか オミクロン株は潜伏期間が2~3日らしいので、思い当たるのは祇園祭の日に京都で歌会に出席したことです。歌会そのものは会議室に数人で、非常勤講師の仕事よりもはるかに安全な状況…

阪大短歌会(大阪大学短歌会)のこと

若い人の間で短歌がブームだそうで、あちこちの大学に大学短歌会が生まれている。大阪大学の阪大短歌会(大阪大学短歌会)について私の知っていることを書いておこうと思う。 2015年に「革靴とスニーカー」で角川短歌賞を受賞した鈴木加成太氏は大阪大学短歌会…

新年に決めたことなど

あけましておめでとうございます 昨年は金銭面でえらい目に遭いました(まだ続いてますが)。近況報告 - 固窮庵雑録に書いたように、コロナ禍の初期に大学の授業がなくなり収入が途絶えると思った私は、ビギナーズラックで増えた株を換金したのですが、これ…

日下古文書研究会の『くさか史風』

地域に残された古文書を読むのが、ちょっとしたブームになっている。くずし字ブームと相俟って、公民館などで退職後の人生のテーマとして古文書読解に取り組む人が少なくないという。 そうした中でも、日下古文書研究会は、素晴らしい成果を挙げている団体で…

Excelってこういうものだったのか!

日常的に使いこなしている人にはアホらしくて呆れられそうなのですが、反面、私のような人も多いのではないかと思います、Excelってどういうものなのかわかっていませんでした。 わからないなりに使ってはいました。送られてくるExcelに指示されるまま何かを…

中村健史『雪を聴く 中世文学とその表現』

中村健史氏から『雪を聴く 中世文学とその表現』をご恵贈頂きました。 中村氏の研究に対する姿勢は、帯に記された「実証的研究の成果」の「実証的」に尽きます。京都大学の日野龍夫先生は自分たちの研究に対する姿勢を「クソ実証主義」と仰っていましたが、…

コロナ禍での授業について、非常勤講師の立場から

コロナ禍での大学の授業について、1人の非常勤講師の立場から、どのようなことが起きて、どう考えたかを忘れないうちに記録として書いておく。何度も同じ内容を愚痴っているのが自分でも嫌なので、これで書き切って、区切りを付けたいと思う。 身に付けたツ…

牛を詠む

牛 遅遅塵外步 遅遅 塵外に歩み 雙角不堪勤 双角 勤むるに堪えず 拂盡蒼蠅去 蒼蝿を払い尽くし去り 反芻唐宋文 反芻す唐宋の文 トロクサクッテ世間ヲ知ラズ 角ハアレドモ使ハレズ ウルサイ蠅ドモ追ヒ払ヒ 古人ノ文ヲ今日モ読ム 旧正月辺りに詠みました。十二…

近況報告

ぐずぐずしているうちにお正月も、旧正月も過ぎてしまいました。 昨日、業界用語で言うところの「採点の祭典」が終了し、清々しい気持ちでPCに向かっております。 今年度は突然の遠隔授業の対応で非常勤講師という働き方がほとほと嫌になり、やっと迎えた夏…

地域の文学として 漢詩を取り戻すために

*この文章は、日曜日の講座でお話した内容の一部です。 役に立たないと叩かれっぱなしの古典文学ですが、まちおこしでは大活躍しています。作家に縁のある土地で記念館があったり、文学作品の舞台として“聖地巡礼”するファンがいたり。関西にはそういう古典…

日曜日に公民館で宇田栗園の漢詩についてお話します

長岡京市中央公民館市民企画講座「乙訓地域の歴史や文化を連続講座で鑑賞しよう3」 テーマ「宇田栗園(うだりつえん)の漢詩」 内容 神足村で生まれ、医学・漢学を修め岩倉具視とも親しく交際した「宇田栗園」は、乙訓を代表する漢詩人で全国に名を知られた…

近況報告

ご無沙汰しています。 2020年の幕開けは最悪なものでした。大晦日には例年と変わりなくお節料理を作っていたのに、元旦に高熱が出たのです。翌2日、フラフラの状態でなんとか救急医療センター的なところに辿りつき、インフルエンザと診断されました。 私は自…

令和2年度懐徳堂古典講座「大坂の漢詩を読む」始まります→始まりませんでした

第1回目の講義から振り替えになってしまったのですが、今年も懐徳堂古典講座「大坂の漢詩を読む」を担当します。どうぞよろしくお願いします。 www.let.osaka-u.ac.jp http://www.let.osaka-u.ac.jp/kaitokudo/_upload/20200205-1454311.pdf この春は漢詩に…

六人部是香「向日山を称賛せる歌」

富永屋から六人部是香の長歌が記された額が出てきたというので、翻字して本日11月28日説明会を行った。 六人部是香扁額 【翻字】 称讃於向日山歌並短謌」美濃守六人部宿禰是香」 朝附日むかひの山は」 日のたての春野のとけみ」をちこちに雉子妻よひ」 日の…

地車を詠んだ漢詩

(浪華百景 天満天神地車宮入) 大坂の祭りといえば、地車(異論はあるかも知れないが)、地車を詠んだ漢詩といえば、『摂津名所図会大成』巻之十三上に「夏祭車楽」と題する七言絶句二首がある。 1首目の後藤春草は後藤松陰、美濃の人だが大阪で塾を開いて…

「漢文」は「国語」ですが?

「漢文」なんか要らないという、こういう商売してると馴染みの話題がまたTwitterのタイムラインに流れてきた。今回は漢文クラスタの間だけではなく広い範囲でバズったようだ。たぶん、発言主が有名人であるのと、古典不要論が話題になっていることに関連させ…

きらめく感性――夭折した天才少年田中金峰の目に映った大坂

大坂の漢詩を語る上で外せないのが『大阪繁昌詩』である。肥田皓三先生による『日本古典文学大辞典』の項を引用しよう。 大阪繁昌詩 三巻三冊。漢詩。田中金峰作。文久三年頃刊。大阪の名所旧蹟・四季行事・物産名物を詠じた漢詩一三〇首を収める。一首ごとに…

富永屋がなくなる

自分の無力をひしひしと感じている。 向日市に現存する江戸時代の旅籠、富永屋が解体されるのを知ったのは4月のこと、ネットでいくつかの記事に上がっていた。紙の方も見た。信じられなかった。 私は以前、向日市を含む乙訓地域の漢詩を取り上げて4本の論文…

富永屋の扁額が示すもの──乙訓漢詩壇と朝鮮開化派──

川崎鉄片『鉄片遺稿』(架蔵本) 明治の漢文学史に於いて、これまで知られていなかったが、乙訓地域には共研吟社という宇田栗園が主宰した漢詩結社があり、一地方とは思えぬ賑わいを見せていた。川崎鉄片はこの乙訓漢詩壇の優れた詩人の1人である。 鉄片こと…

漢字が書かれた掛け軸を読みたい!

家を片付けていたら漢字が書かれた掛け軸が出てきた、そんなとき是非読むのに挑戦してほしいと思います。楽しいから! まず、確認するのは漢字の数。漢字が5つくらいしか書かれていなかったりしませんか? お茶を習っている人がいてその人が手に入れたものな…

大坂の桃源郷ーー生駒山人の描いた日下村

陶淵明の「桃花源記」に描かれた桃源郷は俗世を離れた理想社会です。その昔、武陵の漁師が迷い込んだ桃林の果てに、その村があったといいます。 晋の太元中、武陵の人、魚を捕らふるを業と為す。渓に縁うて行き、路の遠近を忘る。忽(たちま)ち桃花の林に逢ふ…

大坂の漢詩を読んでいます

今年度の懐徳堂古典講座で「大坂の漢詩を読む」(江戸時代の作品を読むので「大坂」にしています)という講座を担当しています。全8回、主に近世後期の漢詩を取り上げる予定です。4月の初回は大阪の漢詩を読む意義についてお話し(伝わったかなあ)、生駒…