コロナ禍での授業について、非常勤講師の立場から

コロナ禍での大学の授業について、1人の非常勤講師の立場から、どのようなことが起きて、どう考えたかを忘れないうちに記録として書いておく。何度も同じ内容を愚痴っているのが自分でも嫌なので、これで書き切って、区切りを付けたいと思う。

身に付けたツールやLMS

非常勤先ごとに授業形式やLMSが違っていた。私はパワーポイントが何とか使える程度の能力しかなかったが、下記の形式で授業することができた。

  • 専門学校その1。学校からの指定で、授業内容のファイルを送信。プリントアウトして学生に送られた。学生は各回の課題を手書きで仕上げ、学校に郵送、担任の先生が取りまとめて自宅に送られてきた。添削して学校に返送という手書きの課題を郵送し合うパターン。担任の先生にはZoomなどの利用を提案した。
  • 専門学校その2。教材を担任の先生を通してファイルで送信、Webexで授業、手書きの課題を郵送し合った。
  • 短大。初めは専門学校と同じ形式、のちGoogleClassroomMeet利用。
  • 大学その1。ZoomTeamsを利用。途中から遠隔・対面が混在する授業になった。後期はLMSがTeamsからWebClassに変更になった。
  • 大学その2。大学独自のLMSを使用とのことで使い方を覚えたが、サーバがダウンして急遽GoogleClassroomとMeetで授業することになった。1コマは90分間すべてMeetで版本を輪読し、もう1コマは音声を付けたパワーポイント、例年配布する形の資料、例年授業で話す内容の音声ファイルをアップし、ラスト30分間Meetを繋いだ。後期は対面でも授業できるようになったが、資料は引き続きGoogleClassroomで管理した。
  • 大学その3。WebClass。同一授業を複数の講師で担当するため、専任の先生が作成した教材をアップ、基礎的な課題の提出とそれを踏まえた課題の提出で週2回課題を採点してコメントを付けた。オンデマンド形式だが、後半はチャットで解説、質問を受け付けた。
  • 大学その4。GoogleClassroomにあらかじめ資料やリンクをアップしてMeetで授業、学生もMeetで授業内発表をしてもらった。

大学その1で早い時期に行われたZoomとTeamsの講習会には非常勤講師も参加できたので、ここでZoomのコンセプトを理解できたのが幸いだった。Zoomが使えればWebexもMeetもほぼ同じことだ。

非常勤先が多いと遠隔授業の方法も様々だが、対応するしかない。これで「パソコンは苦手です」というのが許される時代は完全に終わったと思いながら授業をしていた。もうどんなLMSでやれと言われても授業ができるようになったと思う。

仕事を増やすことになったあれこれ

学生から、授業内容ではなくパソコン関係の質問が連日ハンパない分量届いた。1コマ200通のメールに対応した日もあった。大学側でパソコン関係の質問窓口を作っていなかったか、作っても周知できていなかったのだと思う。キャンパスに来たことのない1年生は、大学での授業担当者と学生の距離感がわからず、高校の感覚で気軽に何でも質問するという面もあるのだろう。

スマホで授業を受けていた学生も多かったが、パソコンとスマホ、同じスマホでもiPhoneとアンドロイドで見える画面が違っている。私はiPhoneを使っているので、アンドロイドで見える画面を確認しろと言われても、困ってしまった。

Zoomがいろいろ改善されたのはそのつど情報が流れてきたが、GoogleClassroomやTeamsやMeetや各大学のLMSも同様のマイナーチェンジが行われていたのではないかと思う。使いやすくなるのは歓迎なのだが、こういったこともパソコンに慣れない学生の質問を増やす原因になっていただろう。

自腹を切ってタダ働き

非常勤講師には、遠隔授業ができるようになるまであれこれ勉強した時間に報酬はない。また、遠隔授業にかかった費用についても支給されない。これについては、遠隔授業で浮いた非常勤講師の交通費を均等に割って、手当として支給できたのではと思い、大いに不満である。

一時は食事を作る時間もなく、出来合いのものをパックのまま胃に流し込み、湯船に浸かる時間もなくシャワーで済ませ、起きている時間のほとんどを授業準備と課題のチェックとメールのやりとりに費やしていた。非常事態で気分が高揚し、ただただ学生に授業を提供しようという使命感に突き動かされていたが、とんでもなく劣悪な労働環境で、よく身体を壊さなかったと思う(確実にガタは来ているだろう)。

 非常勤講師にこういう働き方をさせている一方で、学生には人権を尊重することを学ばせ、正規雇用できるように就職支援している大学って一体なんなんだと思う。

専任と非常勤の情報のタイムラグ

非常勤講師は大学にとっては外部の人間なので、大学からの情報が届くのが非常に遅い。そのため、ただでさえタイトなスケジュールの中、非常勤はさらにタイトなスケジュールで授業することになった。LMSのマニュアルが届いて来週これで授業をせよというようなことが起きたのである。

大学生がキャンパスに行けなくて不安であったように、非常勤講師もキャンパスで書面にならない情報を得る機会を断たれてしまった。非常勤先に親身になって対応してくれる専任がいたかどうかで、ずいぶん違っていたと思う。

SNSで得られる情報

遠隔授業をどのように行ったらよいのか試行錯誤していた初期のころは、Facebookのコミュニティをよく見たが、この先どうなるかわからない専業非常勤講師は、専任のように機材に投資することが難しいので、一通り授業ができるようになると見なくなった。

機材に投資することによって、より便利で快適に遠隔授業を行えることはわかるが、来年度の契約がどうなるかわからない身では、できるだけ自腹を切るのは避けたかった。遠隔授業を行いながら、コロナ禍が終わってもこういうスタイルの授業は残って非常勤は減らされるだろうと予想していたからだ。

Twitterでは情報交換というより、遠隔授業をする非常勤同士、励まし合っているという感じだった。一人ではないということがわかって心の支えになった。

遠隔授業が軌道に乗ったころには、Twitterに対面授業を希望する学生さんのタグもできた。学生さんが対面授業に何を望んでいるかを知って遠隔授業の参考にしようと思い、ある程度読んでいたが、対面授業を希望する保護者と称する人物の1人が、嫌なら辞めろとか、非常勤講師に代わりはいくらでもいるとかエアリプするので、ほとほと嫌になった。私は母親としては子供には可能な限り引き籠もって安全に過ごしてほしいので、最初のうちは対面授業をせよという母親たちが実在するのが信じられず、なんらかの目的を持ったなりすましではと思っていたが、そのうち1人は本当に保護者で特定できてしまった。

Twitterのタグをしばらく追ってみて、対面授業を求める学生さんは、一部の実習などを除いては、授業そのものには必ずしも対面を求めているのではない印象を持った。保護者の方も、いつも通り満員電車で通勤しなくてはならない鬱憤を晴らしたかったり、学費に見合った授業ではないこと(親の目から見て)に対する不満があったりすることから、対面授業を主張しているように思われた(同情するが、それで我が子を危険にさらすのは理解できない)。

自分が授業を担当している学生(とその保護者)以外の意見をわざわざ見て消耗する必要はないと思うようになったのと、アンケートや実際に話をした範囲では遠隔授業の方が支持されていたのと(学生と講師という立場を差し引いて、である。そういうことがわからないほどナイーブではない)、そもそも私がいくらこの問題を考えても遠隔・対面をどうするかを決める力が非常勤にはないのとで、対面を希望するタグは見なくなった。

対面授業再開に対する不安

前期の途中から対面授業・遠隔対面混成授業になったが、遠隔・対面の両方で授業を行うのは、かなり難しかった。Zoomの向こうの学生にチャットなどで対応していると目の前の学生への注意がどうしてもおろそかになるし、その逆もある。後期は事務の人が授業に入ってサポートしてくれたので助かった。画面の向こうの学生と目の前の学生両方に気を配って授業をするという、遠隔授業と対面授業を1人で同時に行う能力は、ヒトには備わっていないと思う。

対面授業の再開は各大学一斉にというわけではなかったので、同じ日に2校以上掛け持ちしている非常勤講師は授業ができなくなることもあった。他校の遠隔授業を空き教室でするというのはやはり無理のようだ(こっそり授業していて中断しないといけなくなると困るので問い合わせた)。私は遠隔授業が終了するとすぐ駅まで走り、電車の中で昼ご飯のカロリーメイトを食べて対面授業をするという生活になった。カラオケボックスなどを利用した人もいたと聞く。もちろん自腹だ。

しかしなにより恐ろしかったのは感染すること、ウイルスを大学間で持ち運んで感染者を増やすことだった。感染したらどうしたらいいか、学生向きの情報があっても非常勤講師向きの情報がある大学はなかった。収入面でも不安だし、初期のころは感染者が特定できるくらい報道されたので、社会的に死にそうなのも不安だった。

感染を防ぐため、帰宅したら玄関でスマホなどをアルコール消毒するのはもちろん、着ているものを即脱いで洗濯機に入れ、シャワーを浴びていた(私はふだん着物を着ているので、ガンガン洗濯できる洋服を購入するのに出費がかさんだ)。ここまで感染しないように気を付けているのだから、罹っても自分には責任がないと開き直っていた。

専業非常勤の今後

令和2年度の前期は、突然の事態で1番の被害者は学生だ、少しでも不安を感じないで済むようにしてあげたい、と思い、メールにもできるだけすぐ返信していた。その結果、朝8時から夜中の2時まで絶え間なくメールの対応をしていた。

24時間常に仕事中の感覚で気持ちも休まらなかったので、後期はメールを巡回する時間を決め、学生にも伝えた。

遠隔授業をしながら思ったのは、コロナ禍が収まっても遠隔授業のスタイルは一部採用され、授業1クラス当たりの学生数を増やして授業自体は減らされるだろう、そうなると非常勤講師から切られるということだ。この流れは避けられないだろう。

実際にはどういう理由でかわからないが、非常勤の契約を切られたという同業者の声を今年は例年より多く耳にする。

非常勤講師の立場からすれば、令和2年度は文字通り命を削ってかなりの部分を無償で働いたわけだ。それなのに、何の手当もないばかりか、次年度の契約打ち切りというのはあまりにも酷いと思う。同業者仲間には組合を通して交渉している人もいるし、すっかり元気を失ってしまい、心配な人もいる。

私も3コマ切られたが、大学の合併によるものなので(私は吸収される側に雇われていた)戦っても勝てないと思うのと、非常勤のコマ数を減らしたかったので、受け入れている。

今後は、非常勤講師のコマを得るのが今よりも更に大変になると思う。ただ、遠隔授業のスキルを身に付けたことは役に立つだろう。同程度の授業ができる非常勤講師がいたとすれば、私を雇う方がいい。遠隔授業への対応という点では何の心配もないからだ。

また、非常勤ではなくYouTube等を使って講義をし、収入を得ることも考えてみる価値があると思う。